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「モヤモヤメモ」は、書くことでストレスを発散するWriting method (Pennebaker, 1997)という手法に認知行動療法を組み入れ開発したものです。その効果は1000人を対象に行った「Webによる心理的well-being向上プログラム」の実証研究により検証されています。

人間にはストレスに対処する力があり、SOC(Sense of Coherence)と呼ばれています。
SOCの強い人は「生きる力」が高く、ストレスを成長の糧にして、喜怒哀楽に富んだ豊かな人生を歩むことができます。
SOCは先天的なものではなく、ストレスの対処に成功した経験で育まれる力です。その根底にあるのが、「信頼できる人たちに囲まれている」「いろんな人に依存して自己がある」という確信です。
開発したストレスマネジメントの効果に関する論文の要旨は以下の通りです。さらに詳しい内容をご覧に鳴りたい方は、原著論文もしくは学会抄録をお読みください。

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論文内容の要旨
論文題目

Webによる心理的well-being向上プログラムの有効性に関する研究
-プロセス評価とアウトカム評価-
東京大学大学院医学系研究科 河合 薫

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■ 緒言

労働者個人を対象にしたストレスマネジメントプログラムは、一般にストレスに対処するための能力向上を目的としたもので、最近ではWorld Wide Web(以下Webと略す)によるプログラムへの関心が高まっている。効果的にストレスマネジメントプログラムを実施するには、アウトカム評価だけでなく、その実施過程で存在するプロセス要素を確かめるためのプロセス評価を行い、実施上の失敗から起こる第3の過誤を防ぐことが重要である。特に重要視されているのがプログラムアウトカム変化をもたらす因果関連の最初のステップを示す媒介変数で、これは、プログラム効果のメカニズムを解明するうえで欠かせない要因である。加えて、基本属性や介入前のストレスレベルの違いがプログラム効果に影響するかどうか(調整変数)を検討することも重要である。また、アウトカム評価を行う際には無作為化フィールド実験法を用い、実践での提供方法を考慮してリクルーティングを行い、プロセス評価で明らかになった調整変数、つまりはプログラム効果が異なるサブグループによる介入の効果を検討することは有用である。そこで、本研究では河合らが開発した、Webを利用した心理的well-being向上プログラムの有効性を、一般の労働者を対象に、
目的1.プログラムが計画どおりに実施されているかを明らかにする(fidelity)。
目的2.基本属性、介入前のストレスレベル、およびプログラムの自己評価は心理的well-being(プライマリーアウトカム)と抑うつ(セカンダリーアウトカム)へどのように影響するのかを明らかにする(プログラムメカニズム。
目的3.プログラム効果をコントロール群との比較、介入プログラムの違い、基本属性の影響、
およびリクルーティングの違いから検討する(アウトカムアセスメント)。
以上3点を明らかにすることで、包括的に評価することを目的とした。尚、本論文は研究Ⅰ(プロセス評価)と研究Ⅱ(アウトカム評価)の2部で構成し、目的1と2は研究Ⅰで、目的3は研究Ⅱで検討した。

■ 方法

● 介入プログラム

本研究のプログラムはRyff(1989)により提唱された人間のポジティブな心理的機能としての心理的well-being(人格的成長、人生における目的、自律性、自己受容、環境制御、積極的な他者関係)の向上を目的とした。プログラムはステップ1-4の4部構成で、受講者がサーバーにアクセスし、割り当てられたID・パスワードを入力することで自由に受講が可能である。各ステップの所要時間は20分程度、受講者のペースで2週間以内にすべてのステップを受講してもらった。

● 介入手順および対象

pre-postデザインを用い、pre-テストは調査協力に承諾し登録した直後、post-テストはプログラム終了後(コントロール群は2週間の待機後)、フォローアップはプログラム終了一ヵ月後に実施した。介入群はステップ1-4まで受講する群(介入群A、A’)とステップ1-3までを受講する群(介入群B、B’)の2つを設けた。リクルーティングはビジネス雑誌Pの紙面・HP・メールマガジンで行う方法と、機縁法の2つをとった。研究への参加に同意した対象者は無作為割付にてPルートは介入群A 252名、介入群B 251名、コントロール群254名に、機縁ルートは介入群A’ 143名、介入群B’ 143名に振り分けた。研究ⅠではPルートの介入群Aのうちpre-テストに最後まで回答した239名を、研究Ⅱではpost-テストまで回答したPルートの介入群A 121名、介入群B 121名、コントロール群88名、および機縁ルートの介入群A’68名、介入群B’71名を分析対象とした。

● 測定項目

pre-、post-テストでは心理的well-being尺度邦訳版43項目(プライマリーアウトカム)とCESD13項目版(セカンダリーアウトカム)を測定した。プログラムの自己評価には役立ち感、楽しんだ感、行動への意欲、自己効力感の4変数を用い、各ステップの最後に受講者に回答してもらった。

● 分析方法

研究Ⅰではプログラムの自己評価とアウトカムの関連の検討に介入前の心理的well-beingで制御した偏相関分析と共分散分析を、因果関係の検討にはパス解析を用いた。研究Ⅱでは心理的wellbeingの変化量(介入後―介入前)を従属変数とした共分散分析と、心理的well-being変化量とCES-D変化量の関連をPearsonの積率相関係数を用いて検討した。エフェクトサイズ(ES)の検討には標準化平均差エフェクトサイズ統計を用いた。尚、研究Ⅰ・Ⅱ共に、独立した母集団の平均値の統計学的検定は、用いる変数が2値の場合にはχ2検定、連続変数にはMann-WhitneyのU検定にて行った。また、介入前後のアウトカムの比較は対応のあるt検定にて行った。

■ 結果

[研究Ⅰ]


Pre-テストのみ回答しプログラム受講に至らなかった71名のCES-D得点は、プログラムをスタートした168名より有意に高く、ステップ1のドロップアウト群も継続群より有意に高いことが示された。各ステップの自己評価はすべての項目で平均3.5点(range=1-5)以上で、肯定的に評価した者ほど心理的 well-beingが向上し、その関連性はステップを追うごとに緩やかになる傾向にあった。また、肯定群と非肯定群を要因変数とした共分散分析の結果、楽しんだ感 はステップ1で、自己効力感 はすべてのステップで有意に高かった。さらにパス解析の結果、介入前の心理的well-beingの高い者ほど、プログラムを肯定的に評価する傾向にあった。また、介入前の心理的well-beingの低い者ほど心理的 well-beingが向上していた。プログラムの自己評価は心理的wellbeing変化量を直接的に予測し、抑うつは心理的well-beingを介して改善していた。

[研究Ⅱ]


介入群A、B共に介入後の得点が有意に上昇し(t検定)、介入群Aのみコントロール群との間で統計的に有意な差が認められ(ANCOVA)、ESは心理的 well-being 0.34、人格的成長 0.41、人生における目的、自律性、自己受容、環境制御0.20-0.24、積極的な他者関係0.03だった。尚、一ヵ月後のフォローアップまでプログラム効果は維持されていた。CES-Dは介入群A、Bともに介入による有意な効果は認められなかったが、心理的well-beingが向上しているものほど抑うつが改善していた。心理的well-being低群のESは0.52、高群では0.16と両群とも介入による効果が認められた。機縁ルートの対象者の介入後の心理的 well-beingは、介入群A’、B’共に有意に上昇していた。

■ 考察

[研究Ⅰ]


Webを利用したプログラムでは受講者の学習意欲を持続させる魅力的なプログラムであることが必要だが、肯定的に評価する対象者が6割以上に達し、ドロップアウト群とプログラムの自己評価に有意な差が認められなかったことから、本プログラムはその条件を満たしていると考えられた。pre-テストおよびステップ1でドロップアウトした対象者の抑うつが有意に高く、抑うつ状態にある者は受講意欲が低下しやすい可能性が示唆された。また、プログラムを肯定的に評価する者ほどプログラム効果が高く、最初のステップで楽しいと評価され、自己効力感を高められるプログラムであることの重要性が示唆された。加えて、プログラムの自己評価は心理的well-being変化量を予測し、アウトカムの媒介変数であることが確かめられた。心理的 well-being変化量からCES-D変化量 へのパスが有意であったことから、介入により抑うつが改善される可能性が示唆された。

 

[研究Ⅱ]


介入群Aで介入による効果が確かめられ、‘ノーマル’な一般労働者に本プログラムが有効であることが示された。人格的成長 で共分散分析・ESともに有意な結果が得られ、本プログラムが人格的成長 に効果の高いプログラムであることが明らかになった。介入群Bではコントロール群と有意な差が認められず、ESも0.17と小さいものだったことから、ステップ4をプログラムに取り入れることの有効性が示唆された。また、心理的well-being変化量とCES-D変化量の間に有意な関連が介入群のみで認められ、介入により抑うつが改善傾向に向かうことが確かめられた。さらに、本プログラムが心理的well-beingの低い者に、より効果的であることが明らかになったが、高群においても小さいながら効果が認められた。また、機縁ルートの対象者の心理的 well-beingが有意に上昇していたことは、本プログラムの効果の広がりを示唆する結果である。

■ 実践への示唆

本研究の結果から、Webを利用したストレスマネジメントプログラムが従業員のメンタルヘルスケアの取り組みを促す第一歩となることが示唆された。本プログラムはひとつのステップが20分程度で構成され、すべてを受講しても1時間強で、多忙な労働者でも気軽に受講できる。さらに、プログラムの自己評価がアウトカムに影響する重要な要因で、受講者が楽しいと感じ、自分でもできると自己効力感を高められるプログラム開発が有用であることが示唆された。しかしながら、今回のサンプルはホワイトカラーの比較的小規模な集団で、ビジネス雑誌を講読している仕事への意欲が比較的高い集団である可能性があるため、今後は大規模な集団を対象にプログラム評価を行い、より一般化した知見につなげることが望ましい。

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○河合薫 : Webによる心理的well-being向上プログラムの有効性に関する研究 : プロセス評価とアウトカム評価 ,東京大学博士論文,2007-03-22
○Kawai, K., Yamazaki, Y., Nakayama, K.; Development and formative evaluation of a Web-based stress management program to promote Psychological Well-being,
Japanese Journal of Health and Human Ecology, 2007.7., 73(4), 137-152.
○河合薫、山崎喜比古:産業労働者を対象としたストレスマネジメントプログラムの開発と形成的評価、第16回日本健康教育学会、大阪、2007.7.7.
○Kawai K, Yamazaki Y.;Process Evaluation of a Web-based Stress Management Program to Promote Psychological Well-being 第1回アジア太平洋ヘルスプロモーション健康教育学会、千葉、幕張メッセ国際会議場、2009.7.18-20. 
○Kawai K, Yamazaki Y.;Process Evaluation of a Web-based Stress Management
Program to Promote Psychological Well-being in a Sample of White-collar Workers in Japan, Industrial Health 48(3) ,2009